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2010/12/14

続・シャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は完全にバカげている

GALAPAGOS、シャープのメディアタブレットだが、下記のCNET Japanの記事に担当本部長・岡田圭子氏の製品戦略が紹介されている。

「解説:「GALAPAGOS」タブレットの完全直販に踏み切ったシャープの思惑」(CNET Japan 2010/12/08)

シャープのオンリーワン商品・デザイン本部長兼ブランド戦略推進本部長の岡田圭子氏曰く、GALAPAGOSには3つの特徴があるらしい。

(1)新聞、雑誌の定期購読ができること。

(2)縦書き、横書き、ルビなど日本語特有の表現機能に優れていること。

(3)コンテンツ配信を映像、ゲーム、音楽にも拡大することでデバイス自体が進化すること。

これらの特徴が既存のサービスの二番煎じでしかなく、シャープのガラパゴスが失敗するしかないことを、一つひとつ見てみよう。


■電子媒体の読者は新聞社・出版社より自分の好みを優先する

まず(1)の新聞、雑誌の定期購読ができること。

PCをふくむ情報端末で、いつも新聞や雑誌のニュースを読んでいる人たちは、ニュースを毎日新聞、朝日新聞などの新聞社ごとや雑誌ごとでは読まない。

たとえばみなさんがYahoo!ニュースを読むとき、一つひとつの記事が毎日新聞か、朝日新聞かをより分けながら読むだろうか。

国内、海外、経済、スポーツ、ITなどのトピック別に読み、たまたまそれが産経新聞の記事だったり、CNET Japanの記事だったりするだけのはずだ。

インターネットで各種ニュースを読む利用者にとって、新聞社や雑誌社という情報発信のくくりは、すでにほぼ無意味になっている。自分の見たいニュースを拾い読みしているだけだ。

シャープ開発者の認識は、この点で完全に時代に遅れだ。

個人の好みだけにもとづいて、複数の新聞や雑誌を横断で、ニュースをひろい読みする仕組みはすでに存在する。各種ニュースサイトのRSSフィードだ。

例えばAndroid端末を持っていれば、RSSフィードを自動でダウンロードし、オフラインでも読めるアプリを使って、個人の好みにあったニュース配信を体験している利用者がすでに存在する。しかもニュース購読は無料だ。

すでにこの仕組があるのに、誰が好きこのんで電子書籍端末をつかって有料で新聞や雑誌を購読するだろうか。

シャープは新聞・雑誌の購読ができるのがGALAPAGOSの特徴だと語るが、みごとに進化から取り残された現状認識で、まさにガラパゴスだ。


■日本語特有の表現を訴えた電子書籍端末は過去ことごとく失敗

次に(2)の縦書き、横書き、ルビなど日本語特有の表現機能に優れていること。

むかしから紙の書籍を愛読している方はご存知のように、単行本、新書、文庫、雑誌などの出版形態を問わず、ルビはどんどん無くなってきている。

難読漢字はひらがなに置きかえられ、編集者は執筆者のむずかしい表現をやさしく書きかえさせるなど、文芸書をのぞいて、紙の書籍は読みやすさを追求してきた。その過程で、ルビというものはほぼ絶滅している。

最近、ルビを復活させる動きはあるものの、ルビがなくても読める本で書物離れを食い止めようという大きな動きは変わらない。

なので、紙の出版物で絶滅しつつあるルビを、電子書籍端末の特徴として語るのは、やはり出版界の現状について、シャープの認識がガラパゴス状態であることを示している。

そして、横書き、縦書きについてだが、横書きは日本語特有ではないので論外として、縦書きが日本語特有の表現であることを仮に認めたとしよう。

しかし、縦書きを日本語特有の表現だと認めるほど、日本語の特殊性にこだわる読者なら、間違いなく電子書籍端末ではなく、紙の書籍を購入するはずだ。

そもそも日本で過去に発売され、みごとに商業的に失敗した電子書籍端末は、すべて縦書きを実現し、縦書きを実現していることをウリの一つにしていたではないか。

縦書きやルビをふくめて、日本語特有とされる表現は、電子書籍端末の普及のキーポイントでも何でもないことは、すでに歴史が証明している。

いまさらAmazonのキンドルに対抗して、縦書きの表現力がすぐれているなどと言っても、現実にはまったく差別化要素にならない。ここでもシャープの現状認識はガラパゴス状態なのである。


■コンテンツ有料配信のビジネスモデル自体に限界あり

次に(3)のコンテンツ配信を映像、ゲーム、音楽にも拡大することでデバイス自体が進化すること。

個人的には、まず、この言い方が誇大広告だと考える。コンテンツを受信することでデバイスが進化するなら、僕らのパソコンは毎日「進化」していることになる。こんな修辞法はデタラメだ。

次に、携帯端末への音楽コンテンツ配信に、まったく新しさがないことは言うまでもない。iPhoneやiPadが、iPodからの流れでとっくに実現しており、すでにサービスとして定着している。

もともと音楽のネット配信は、ナップスターが著作権者との対立という危険を冒して実現したものだが、シャープが権利者との係争リスクをとるはずがないことは言うまでもない。

したがって、音楽配信がGALAPAGOSのキラーコンテンツになりえないのは当然で、特徴ですらない。

ゲーム配信については、任天堂やソニーなど、ゲーム機としての性能や使いやすさを追求した携帯端末に明らかに優位性がある。

シャープがいまさら携帯ゲーム機事業に参入して、ゲーム開発会社と連携した魅力的なゲーム開発で、任天堂やソニーに対抗できるとは考えられない。

また、グリーやDeNAのように大量の広告宣伝費を投入して、顧客を囲い込むような戦略をとることも考えられない。

携帯ゲーム機の事業者に対しても、携帯電話用ゲームの事業者に対しても、シャープは決定的な優位性をもたないので、ゲーム配信もGALAPAGOSの特徴になりえない。

最後に映像配信については、PCにおけるGyaoや、携帯電話におけるドコモ動画やbeeTVが、とても成功と言えないマイナーな存在にとどまっている現実を見れば、多くを語るまでもない。

結局、映像コンテンツを有料配信する場合、テレビ局や大手映画製作者など、既存のパッケージ・コンテンツ制作で実績のある企業に依存するか、ニコニコ動画、YouTube、UStreamのように無料配信モデルをとるか、どちらかでなければ、十万単位の視聴者を獲得できない。これもすでに実証済みだ。

以上のように、音楽、ゲーム、映像のどの方面でも、GALAPAGOSが一般消費者に優位性を示すのは、どう考えてもムリがある。やはりシャープの現状認識は時代に追随できていないガラパゴス状態である。


■結論:シャープのGALAPAGOS発売意図は依然不明

さらにGALAPAGOSは、量販店での店頭販売を意図的に避けて、直販のみという奇妙な販売形態をとっている。

シャープによれば、個々の利用者のニーズを直接把握するためだという。

「最大の理由は、シャープがサービス事業へ進出するにあたり、端末の販売はユーザーとの関係を密にできる直販が最適と判断したからだ。直販の仕組みによって、シャープはGALAPAGOSタブレットの購入者を完全に把握でき、それらのユーザーに対して密接なコミュニケーションを取ることができるわけだ。」CNET Japan 2010/12/08 09:30配信『解説:「GALAPAGOS」タブレットの完全直販に踏み切ったシャープの思惑』

上述のように、既存の電子媒体の利用者の需要や、既存のコンテンツ配信の需要を、マクロレベルでとらえていないシャープに、ミクロレベルできめ細かく利用者の需要を拾う能力があるはずがない。

マクロレベルで需要をとらえるより、個々の契約者を追いかけて、ミクロレベルの需要を継続的にとらえ、そこから電子書籍事業としての戦略を演繹する方が、はるかに費用と能力が必要とされるのは言うまでもない。

仮にシャープに個々の利用者のミクロレベルの需要を継続的にとらえて分析する能力があれば、量販店での小売でも十分対応できたはずだ。

というのは、利用者自身にiTunes StoreやAndroidマーケットのようなコンテンツ提供サイトにサインアップさせ、個々の利用者がどんなコンテンツを購入しているかを追跡すれば事がすむからだ。

直販によってシャープが直接、契約者を完全に把握できるというのは分かるが、はたして契約者の個人情報と、コンテンツ購入の傾向を結びつけることに、どこまで意味があるのか。

例えば、40代で福岡県在住の男性が、コンテンツA、B、Cを購入したからと言って、その購入履歴データを、同じ属性をもつ、別の40代で福岡県在住の男性のコンテンツ提供に活かせるだろうか。

むしろネットのコンテンツ提供では、個々の利用者が一意に特定されさえすればよく、利用者の現住所や実年齢は重要ではない。これもネット社会の常識だろう。

最近、何かとネット社会の匿名性が非難されるが、ネット社会における利用者の人格とは、その利用者がAmazonや楽天で購入したものの集合であって、ネット事業をいとなむ限りはそれさえ一意に特定できれば十分だ。

一体なぜシャープが、ネット社会ではなく、利用者の現実社会での属性の把握にこだわって、直販という販売形態を取るのかが理解できない。

シャープがコンテンツ配信に必要ないと分かった上で、契約者の個人情報を把握したいのだとすれば、何か別の意図があるのではないかと考えたくなる。

しかし、実態はGALAPAGOSを企画したシャープの社員たちの考えが浅く、そこまで思いが至らなかっただけのことだろう。

以上、シャープのGALAPAGOS(ガラパゴス)が、いかに誤った現状認識にもとづいて作り出された製品であるかを論証してみた。

売れもしない製品を第一線で売らされる営業担当者には、心からご同情申し上げる。

シャープの強みはデバイスの開発・製造能力であって、飛び抜けた独創性の求められるコンテンツ事業では決してない。たぶんシャープは液晶の成功に酔って、何か勘違いをしてしまっているのだろう。


*2011/09/15 追記:
僕の予想どおり、このシャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は2011/09/15に販売終了が正式アナウンスされた。こちらがシャープの「お知らせ」ページ。もう少し頭を使えばムダな投資をせずにすんだと思うのだが。

>>「シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/09/28)
>>「SHARP、GALAPAGOSが海外展開するというアホらしさ」(2010/12/31)
>>「SHARP、GALAPAGOSをインドやアフリカの電子教科書に!?」(2011/01/03)
>>「電子書籍なんて、やめてしまえばいい」(2011/01/25)
>>「著作権保護つき電子書籍の普及は、弱者から本を奪う」(2011/02/02)
>>「電子書籍端末って、一体だれが、どこで使うの?」(2011/02/04)

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